TALK4.

Bourbon Bar ANKI〈バーボンバー アンキ〉

 

 

何かのきっかけでうちの店に来てくれたのなら、バーボンは美味しい、面白いと1%でも興味を持って帰っていただけたら嬉しいです。(呉)

 

バーボンは、甘くて包み込んでくれるような優しさがありますね。(乃々)

 

呉寛之( バーボンバーアンキ オーナーバーテンダー)

乃々(ウイスキー女子・インスタグラマー)

 

 

 

バーボンの品揃えは日本一。

オールドボトルが豊富。

 

乃々 (壁側の棚を指して)こちらの棚に並んでいるのはとても古そうですね！

 

呉 そうですね。中には100年以上前のボトルもあります。例えば(空のボトルを取り出して)これは空瓶ですが、1911年のジムビームです。

 

乃々 1911年!

 

呉 それと、これはオールド・ラムズ・ヘッドというバーボンですが、ボトルの後ろにわかりやすく〈メディカル・パーパス・オンリー〉と書いてありますが、当時のアメリカは禁酒法の時代でお酒としては渡せないので、薬局で滋養強壮剤のような感じで薬用ウイスキーとしてお酒を処方してもらえました。

 

乃々 ボトルのデザインもお洒落ですね。

 

呉 空瓶はあくまでも資料なので、お客様に直接触れてもらったりして喜んでもらえたらいいなと思って置いています。

当店でお酒が入っていていちばん古いのは、1902年蒸留のバーボンになります。

ここにはありませんが1800年代のバーボンもありますよ。

 

乃々 えー、すごいですね。

 

 

呉 お店に来られた方が、ウイスキーやバーボンに詳しくなくても、バーボンってこんなにたくさん種類があるんだ、こんなにたくさんのボトルがあるんだという驚きを感じてもらえたら嬉しいです。

品揃えで勝負しているわけではないのですが、日本でいちばんバーボンウイスキーの品揃えがある店と言われていますので、お客様の好みに合うバーボンとの橋渡しができたのなら幸いですね。

 

乃々 私はバーボンを普段飲まなくて、スコッチばかり飲んでいますから、メーカーズマークとかジムビームのような有名なものしか知らなかったんですが、こんなに種類があるのでびっくりしました。

しかも、日本一というだけあって、古いものの品揃えがすごく多いですし、バーボンのファンは勿論ですがウイスキー好きの方が来たら喜ばれるお店なんだろうなって思いますね。

 

 

女性一人でも安心して来ていただけるための心遣い。

 

乃々 最初の印象として、カウンターだけですから女性が一人で、バーボンのことがまったくわからない状態で来ても、マスターと会話しながらオススメを聞いたりできるんじゃないかって思いました。

 

呉 女性お一人のお客様も普通にいらっしゃいますよ。

これは「今時」だなって思ったのは「名探偵コナン」ってわかりますか?

あの作品にバーボンっていう登場人物がいるんですよね。

 

乃々 ああ、いますね!

 

呉 うちに来られたことのあるお客様から、バーボンを飲んだことがない人でバーボンに興味あるから行きたいって言ってるんだけどいい?ってご連絡をいただいたんですがバーボンに興味持ってもらえるなんて、そんな嬉しいことはないから、知ってることは何でも答えますからぜひ連れてきてくださいと返事をしたんですが、ご来店されてよくよくお話を聞いたら「コナン」に出てくるバーボンだったと(笑)。

 

乃々 (笑)。

 

呉 今の日本のウイスキーブームは、モルトウイスキーが引っ張ってくれているブームですから、普段はスコッチウイスキーやジャパニーズウイスキーを飲まれてる方が、たまたま行きつけのバーのバーテンダーと話をしていて、普段よく飲まれているのはバーボン樽熟成のウイスキーなんですよという話からバーボン樽のバーボンって何だろう、なるほど‼︎アメリカで造られているウイスキーなんだと興味を持って来ていただいてる方もいらっしゃったりします。

 

乃々 分かります。

 

呉 女性おひとりで来られるバーボン好きなお客様もいますね。

当店やバーボンに興味を持って来店頂けるのは男女関係なくありがたいです。

新規で来店される方の中には緊張されているのかスマホ画面をずっと見ている方がたまにいらっしゃるのですが、話しかけない方がいいのかな？それとも操作しているフリをしながらバーテンダーと話すきっかけを探しているのかな？とドキドキします。カウンターの中と外の静かな攻防ですね(笑)

 

乃々 (笑)。

 

 

 

女性がお一人でいらっしゃる時はどんな事に配慮されていますか?

 

呉 うちは小さな店なので席数も少ないですが、なるべく他のお客様との間隔を空けるようにしています。

これは女性のお客様に限った話でもないのでしょうけれども、例えば強めの香水をつけていらっしゃったり、煙草や葉巻を吸われたり、そういったウイスキー以外の香りを気にされる方も増えてきていますので。

 

乃々 ああ、なるほど。

強い香水や煙草とかはウイスキーの香りを楽しんでいる方には迷惑になりますもんね。

 

呉 うちのお客様には今のところいませんが、いきなり話かけようとする方がいらっしゃった場合、お互いが嫌な思いをされないように、座っていただく位置だったりとか気は遣いますね。

 

乃々 そういう気配りは嬉しいです。

 

呉 お客様のお名前とか職業とか一切聞かないので身バレやストーキングの心配は要りません(笑)

長年通われている常連の方の中にもお名前も知らない方もいらっしゃいます。

そういう事は気にせず、ゆっくりとバーボンを楽しんでもらいたいです。

逆に「〇〇」と呼んで欲しいなどのご要望は遠慮なくお申し付け下さい(笑)。

 

 

 

初めてのバーボン。

1980年代のオールドボトル。

 

乃々 普段あまりバーボンを飲み慣れていない方へ向けてオススメはありますか?

 

呉 オススメというのはその方がお好きだろうというお酒の味わいや香りを、ちゃんとこちらが理解したうえでお出しするものだと思っていますからオススメって聞かれたら、ないって答えています(笑)

それでも、あえてオススメを出すのであれば….少しだけ古いもの、80年代や90年代のスタンダードと呼ばれている商品をお出しします。

バーボンを普段飲まれない方にお出しするなら、そうですね、このあたりかな….(棚からボトルを取り出す)。

スプリング・リヴァーとウォーター・フィル&フレイジャーです。

 

乃々 (ボトルのラベルを見ながら)ケンタッキー産なんですね。

 

呉 日本で知られているバーボンは、ほとんどがケンタッキー州で作られています。

こういうちょっと古めのものは、味がある優しさと言いますか。

角が取れて丸く、柔らかく優しく、温かさを感じる味わいになっていますので、バーボンを飲みなれていない方、ウイスキー自体をあまり飲みなれていない方でも飲みやすさを感じていただけるかと思います。

飲まれますか?

 

乃々 じゃあ、せっかくですから、出していただいたスプリング・リヴァーをお願いします。

このお酒は何年頃のものですか?

 

 

呉 こちらは1988年、まだウイスキー特級というランクが残っていた時代ですね(グラスにお酒を注いで乃々さんの前に差し出す)。

お口に合うと良いのですが。

 

 

 

 

乃々 (一口飲んで)あぁ‼︎美味しい。口当たりがすごく優しいですね。

 

呉 そう思っていただけると嬉しいですね。

 

乃々 香りがトフィーっぽいような感じがする。

甘くて。

モルトとは違う包み込んでくれるような優しさがありますね。

バーボンは癒しのウイスキー。

この美味しさを知ってほしい。

 

呉 バーボンも美味しいウイスキーなんだって感じてもらえるといいなと思っています。

日本でバーボンのイメージというと、荒々しいとかコスパがいいとか、値段は安いけどそれなりの味が楽しめるウイスキー、学生の頃はまずバーボンからウイスキーを覚え、そこからブレンデッドやモルトになるというイメージを持たれていらっしゃる方が多いと思いますが、他のモルトやブレンデッド同様に、美味しいウイスキーなんだよって知ってほしいです。

 

乃々 美味しいです。

バーボンってこんなに美味しいウイスキーなんだって思いました。

 

呉 何かのきっかけでせっかくうちの店に来てくれたんだから、バーボンって美味しいとか、面白いとか、ご来店前よりも1%でも興味を持って帰っていただけたら嬉しいです。

僕は、バーボンは癒しのウイスキーだと思っています。

ウイスキーの中でも深い甘さが特徴のお酒ですし、疲れた時に飲むと疲れを癒してくれるウイスキーなんです。

 

乃々 80年代のウイスキーなのにこんなに香りが抜けてないなんて、保存状態がすごくいいんでしょうね。

 

 

呉 バーボンウイスキーへの愛をたっぷり注いでいるからですかね(笑）

そういった古いボトルたちは初代が1980年からバーボンに特化したお店にしようと、買い集め続けてきて、結果的にオールドボトルだらけになっていますから、僕は初代におんぶに抱っこです(笑)。

今はネットがここまで普及していますし、世界中にウイスキーファンがいますから、見たり手に入れようとするきっかけを得るのは実は簡単なんです。

今年「TIME」誌(1923年創刊。アメリカの権威あるニュースマガジン)に当店が掲載されてからは、特に世界中のバーボンコレクター（転売ヤー含む）から、金額がバカじゃないの(！？)という”素敵な金額”で連絡がきます(笑)。

うちのラインナップを崩さないためにはそういうところからも仕入れなきゃならないんですが、提供できる金額や提供したい金額を考えながらの仕入れはなかなか難しいですね(苦笑)。

可能な限り「ANKIに行けばあのバーボンが飲める」と言われる店で居続けられるように頑張ります。

ただ、「それANKIに行けば飲めるよ」と確認もせずにお客様に伝えるバーテンダーさんには止めて！と言いたいです(苦笑)。

開封していればいいんですが、持っていなかったり、持っていても店に無かったり、理由があって開封出来ないボトルだったりすると、せっかく期待してご来店頂いたお客様を裏切る事になってしまいますので、とにかくバーボンウイスキーと当店を楽しんで頂きたいですね。

 

乃々 楽しいです、すごく。

 

 

呉 今、オールドボトルを扱っている店はとても増えてるんですね。

でもオールドボトルが現行品だった時代にリアルタイムで飲んでいて、その味を覚えていて、その時と味は同じなのか、全く違うものになって、その時と味がどう変わっているのか、その経験を実際に聞きながら追体験することができるお店はとても少ないと思います。

うちはまだ初代がいるので、生きているうちに(笑)来てくれると、時代背景も含めて話をしてくれますから。

おじいちゃんの昔話じゃないですけど(笑)。

 

乃々 (笑)。そういうお話を聞けるバーってなかなかないですもんね。

私たちってどうしてもオールドボトルになった状態のものしか飲めないから。

当時どんな味だったかは想像でしかわからないから、実際飲んでいた方のお話を伺えるのって魅力的ですよね。

 

呉 でもこの間、ネットで「マスターが面倒くさい」っていうコメントが書かれてましたけど(笑)。

 

乃々 ハハハ!

 

呉 笑っちゃったんですけど、考えてみたらその「マスター」が、初代の事を指しているのか、自分の事を指しているのか….(笑)。

 

 

 

中区栄5丁目。地下鉄矢場町駅を出て新栄方面に歩を進めていくと「Bourbon Bar ANKI（バーボンバーアンキ）」があります。

SINCE1980の文字がプレートに描かれた木製の重厚な扉を開けると、マスターが立つカウンター側、お客様が座る側、それぞれの壁面に計2,000本以上のバーボンウイスキーがずらりと並んでいる様は圧巻。

初めて見るオールドボトルも数多くありボトルのデザインがどれも秀逸、さながらバーボンの博物館を訪れたようでした。

マスターの呉さんはこのお店の2代目。

高校を卒業後、2年間カナダを放浪し、帰国後にこのお店で働くようになり、2023年の7月に晴れて2代目オーナーバーテンダーに就任しました。

日本バーボン普及協会愛知支部支部長、ヨーロッパバーボン&ライ協会会員(アジアで唯一の会員)、東京ウイスキー&スピリッツコンペティション公式審査員、バボペディア(月に一度Youtubeでライブ配信しているバーボン飲み会)のバーテンダー役などを務め、アメリカの権威ある「TIME」誌にも取り上げられた世界的にも名高いお店ですが、格式張った緊張感はなく、バーボンとの出会いの場として、一人でも気軽に入って、お気に入りのバーボンをゆっくり味わうことができます。

店内にはアンティークの電話や柱時計があり、せわしく時が流れる世間に抗って、この店だけ時計の針を止めて佇んでいるように見えました。

 

 

 

Bourbon Bar ANKI

住所:名古屋市中区栄5-10-16

名古屋市営地下鉄名城線「矢場町」駅3番出口から徒歩7分

TEL : 052–241-9827

HP https://bourbonbaranki.wixsite.com/website

営業時間:月~土/19:00~2:00(ラストオーダー1:30)

祝/20:00~1:00(ラストオーダー0:30)

日曜定休

※4名様以上でのご来店の場合は前日までのご予約をお願いいたします。

※日曜日のご予約も、2代目の予定が空いていれば受けますので、お気軽にお問い合わせください。

 

 

 

PROFILE

呉　寛之さん（ごう　ひろゆき）

1980年にOpenした日本を代表するバーボンウイスキーバー「Bourbon Bar ANKI」の二代目店主。

店内には約2,000本ものバーボンウイスキーが並びTIME誌の編集者や特派員、専門家たちからノミネートを募集し、世界で斬新でエキサイティングな体験ができる場所が選出され2023 World’s Greatest Places 50に。​

 

インタビュアー

乃々さん（のの）

Instagramを中心に趣味のウイスキーやBAR情報を発信。

社会人1年目からウイスキーにハマり蒸留所の見学など様々な場面で情報を発信している。

乃々さんのInstagramはこちら

 

 

文

山本格司

トマリギ研究所

 

編集

藤田智己

トマリギ研究所